小幡氏関係

永禄三年(1560) (戦国期山内上杉氏の研究-2013黒田基樹氏著)
 八月末から、山内上杉憲政の復帰を掲げて長尾景虎の関東侵攻が本格的に展開される。
  それにともなつて憲重は、相婿の図書助によって本拠国峰城を攻略され、没落して武田氏を
  頼ることになるが、それについて
「甲陽軍鑑」巻十一では、次のように記している。
 一、上野侍大しやう小幡尾張守、あひむこ小幡図書助と申侍大将にてだてをせられ、牢人し
  て、甲府へ参り、信玄公をたのミたてまつる故、則信玄公か、へ被成、信州大日向といふ
  所にて、五千貫の所領をかんにん分とありて、小幡尾張守に被下事、庚申五月成り。然者
  小幡尾張・小幡図書両人ハ、上野みのハの長野信濃むこなれども、小幡尾張をバ信濃守に
  くむ。しさいハ小幡尾張地戦千騎計持たる故、むこにても、永野信濃守手にまわらざると
  心得、今壱人のむこ図書ハ、尾張守よりハ少身者成故、信濃守ひくわんニ成候間、図書と
  信濃守談合して、小幡尾張をおし出すを以、如此。庚申九月中に、信州・上州のさかひ、
  なんもくといふ所に、やうがひをこしらへて、右尾張をさしおかる、。尾張守才覚を以、
  西上州の城三ケ所、信玄公御手に入。

 また「箕輪軍記」には次のように記している。
  南上州国峯の城には小幡尾張守信貞千騎にて楯寵れり。彼も業政知音にて、上杉第二の家臣
  にて忠功の者なれども、図書之助と不和により折々信玄の方へ参り、業改も何かとなく信玄
  を撰。永禄二年五月信貞草津へ入湯せし留守を伺ひ、国峯の城を責とりて信貞を国へ不入、
  図書之助を以国峯の城主とす。無拠信貞妻子を引卒し甲州に参、信玄に此由申上願える。
 (中略)是こそ幸なりと悦ひ給ひ、夫より信州吊川と申所に出張を築き尾張守を被入置。
  永禄四年二月二日上野国を責取らんと一万五千五百余人を引卒し、甲府を打立余次の峠を
  被通、上州南牧の鳥本に到着被致けり。爰(ここ)にて尾張守に信玄対面被致被相尋候者
 (後略)

  これらの記載は、年月などそのままには信用できないところもあるが、小幡図書助が国峰城
  を攻略し、憲重は武田信玄(晴信)のもとに没落したこと、信玄の西上野侵攻にともなって
  国峰城を奪還したという、おおまかな経緯については採用することができるであろう。

  そして憲重の国峰城復帰は、信玄による本格的な西上野侵攻が展開された、永禄四年十一月
  二十日のことであったから(「加沢記」群…三七)、国峰城からの没落はその前年のこと、
  長尾景虎の関東侵攻にともなうものであったととらえて間違いないであろう。
 

  そして小幡氏において、景虎のもとに参降したものとして、永禄四年初めの状況を示した
  「関東幕注文」(「上杉文書」群二一二三)には、惣社長尾景総同心衆の惣社衆として
  小幡三河守、足利長尾景長同心衆の足利衆として小幡次郎・小幡道佐の名があげられてい
  る。このうち三河守は、室町期以来の有力一族の系統にあたっているから、次郎・道佐が
  国峰小幡氏にあたるととらえられる。そのうち道佐については、彼の永禄十年の「生島足島
  神社文書」において、国峰小幡氏の一族として自徳斎道佐の名で所見があるから(群二三七
  六)、彼らが国峰小幡氏の一族であったことは確実ととらえられる。

  そしてここで注目したいのが、次郎である。この次郎の系譜を考えるうえで興味深い史料
  が、次に掲げる「高山氏系譜」のうち高山光量の娘に関する記載である(『藤岡地方の中世
  史料』二四六頁)。

  女子 嫁干小幡上総介信定末子次郎信之、後為神成城主小幡図書助之子、則在神成城、
  次郎母長野信濃守業政女也、次郎有女大力也、嫁干那波家臣今井与七郎而、産一女、又大力
  也、与七郎有故赴西国、不従而留、女妻高山左近重吉、与七郎元来為那波彼末商、後改号
  那波也、

  高山光量は、上野高山氏の一族で、高山遠江守満重の子、山城守行重の弟、遠江守定量の
  兄として掲げられ、白井長尾景春の娘婿になり、長尾又次郎・肥前守を称し、景吉に改名
  したと記されている。ただし父・兄弟の関係はそのままに信用することはできず、また長尾
   景春の娘婿というのも世代が合わず、同じく信用できない。高山氏の系譜関係について
  は、残されている史料をもとに復元する必要があるが、ここでは高山光量の娘が、小幡次郎
  の妻となっていることに注目しておきたい。これによって次郎は、図書助の子であることが
  知られる。なおそこでは、「上総介信定」の末子、すなわち憲重の子で、図書助の養子に
  なったと記されているが、これについては、憲重系においてそう

  • 最終更新:2018-09-23 00:40:41

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