箕輪城の風景その1

  ある老師がおった。

   来る日も来る日も、丘の東屋に膝を休めていた。

   「先生、こんなことを聞いたらなんですが、なぜでしょうか?」

   「うーむ、君の言う通りかもしれない」

   「どういうことですか?」

   「この丘の上に来ない理由が見つからないんだ、なぜだろう?」

   「そうだったんですか、なら仕方ないですね」

   やがて時が過ぎ、この老師の御業は語り継がれ、伝説と成るであろう。


  また別の師がおった。

   来る日も来る日も、書をまとめ衆目の前に掲げていた。

   「先生、毎日大変ですね、そのうち書き尽くすんでは?」

   「うーむ、そうでもないんだよ」

   「どういうことですか?」

   「まとめる度に、内容が増えていくんだ」

   「そうだったんですか、本当に大変ですね」

   やがて時が過ぎ、身動きが出来なくなるまで、師の偉業は止まないであろう。

20160819  棟治  

  • 最終更新:2016-08-19 01:26:35

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